認知バイアスとは、人間が何かを考えたり記憶したりする際に持ってしまう先入観のことです。良く聞く「希望的観測」や「生存バイアス」もこの認知バイアスの中の一つです。
本来は論理的かつ合理的な決定をしなければならないときに、認知バイアスの影響をうけてしまうと結論がズラされてしまう可能性があります。認知バイアスを理解し、意識することで、思考が逸れてしまうことを防ぐようにしなければいけません。
もしくは、逆に認知バイアスがかかることを逆手に取れば、物事を円滑に進められるかも。
Wikipediaを見ると、数多くの認知バイアスが掲載されています。一つ一つを見ると、「確かにやってしまいがちかも。」と思うような認知バイアスが数多く紹介されていました。
以下は、Wikipediaと書籍『リファクタリング・ウェットウェア』を参考に、いくつかの認知バイアスを短くまとめてみました。
発生していそうな状況も書いてみたので、「もっとこういう例の方が良いよ!」などアドバイスあればコメントいただけると嬉しいです。
- 後知恵バイアス
- アンカリング
- 確証バイアス
- 偽の合意効果
- 希望的観測
- コンコルド効果
- 根本的な帰属の誤り
- 自己奉仕バイアス
- 心理的財布
- 正常性バイアス
- 生存バイアス
- ゼロサム思考
- ダニング=クルーガー効果
- 単純接触効果
- ツァイガルニク効果
- ホーソン効果
- レイク・ウォビゴン効果
- 🤔 認知バイアスとどう向き合うのか
- 最後に
後知恵バイアス
物事が起きてから、それが予測できたと考えること。
「こんなことが起こるかも」と予想しており、実際にその予想が当たると、実際よりも強く予想していたと記憶する傾向がある。
発生してそうな状況)
😡「だからあの時、言ったのに!」
😰(だったらあのときちゃんと止めてよ…)
アンカリング
先に与えられた数値によって、後に与えられた数値の判断が歪められること。何かの数量を予測したり決定したりする際に影響を与えられてしまう。
例えば、何かの割合について尋ねたときに、事前に「65%よりも大きいか小さいか」という質問をすると回答の中央値が45%に、事前に「10%よりも大きいか小さいか」という質問をすると回答の中央値が25%となり、判断の歪みが生じてしまう。
発生してそうな状況)
😫「5000兆円欲しい!」
👨💼(政府)「〇〇により、10万円支給します」
😫(たった10万円か…)
確証バイアス
仮説を検証する際に、それを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。
SNSでもフォローしている人の傾向によって、反対意見を見る機会が自動的に減っていくため、意思決定に歪みが生じてしまう。
また、自分自身へ評価について、自分のイメージと一致しない評価が与えられた際に、その評価に関心を向けたり記憶したりすることが少なくなった。また、否定的な評価よりも肯定的な評価の方が好まれる傾向にあった。そして、否定的な評価をする人々よりも肯定的な評価をする人々が好まれた。
発生してそうな状況)
😊「(毎日ツイッターに猫の画像が流れるし)全人類は猫が好き」
😊「みんな私のことを可愛いって言ってくれるし私は可愛い」
偽の合意効果
人は、他の人々も自分と同じように考えていると見なしたがる傾向のこと。人々は自分の意見・信念・好みが実際よりも一般大衆と同じだと思い込む傾向がある。
グループで議論したときによく発生し、そのグループの総意はもっと大きな集団での一般的考え方と同じだと考えることが多い。
発生してそうな状況)
😊「この組織ではアジャイルな開発をしてるから、世の中ではアジャイルが普通。」
希望的観測
「そうであって欲しい」「そうだったらいいな」という希望に判断が影響されてしまう傾向。
「分散コンピューティングの落とし穴」もこれに当てはまりそう。
- ネットワークは信頼できる。
- レイテンシはゼロである。
- 帯域幅は無限である。
- ネットワークはセキュアである。
- ネットワーク構成は変化せず一定である。
- 管理者は1人である。
- トランスポートコストはゼロである。
- ネットワークは均質である。
発生してそうな状況)
😀「このシステムでは障害は起こらない」
コンコルド効果
金銭・精神・時間的な投資をし続けることが損失になるとわかっているのに、それまでの投資を惜しんで投資がやめられない状態のこと。
発生してそうな状況)
😰「スタートアップを立ち上げたけど、顧客がつかない…、でも、今更やめられない…」
根本的な帰属の誤り
他人の行動を、その行動が起こった状態や状況を見ずに人格のせいにしてしまう傾向。
しかし、自分自身の行為については容易に言い訳をする傾向がある。
人間の行動は、個人的な気質よりもコンテキストに対する反応として起こる方が多い。
根本的な帰属の誤りを提言するには「同じ状況で自分ならどう行動するか自問する」「見えない原因を探す」「同じ状況に置かれたほとんどの人が同じ行動をするなら、その状況が行動原因だと考える」などがある。
発生してそうな状況)
😭(自分の失敗の時)「疲れてたから」「風邪を引いていた」
😡(他人の失敗)「あいつは出来ないやつだから失敗した」
自己奉仕バイアス
成功を自分のおかげだと思う傾向。
自己奉仕バイアスは成功を自分の手柄とするのに失敗の責任を取らない人間の一般的傾向でもある。自分の失敗については外的要因を集めようとする。
発生してそうな状況)
😊「私があの時アドバイスをしたから、あのプロジェクトは成功した」
😊「私は頭がいいし、よく努力しているから評価で5をとれた」
😡「あの上司は僕のことが嫌いだから評価で1をつけた」
心理的財布
購入する商品の種類ごとに心理的な複数の財布を持っているという概念。
発生してそうな状況)
😊(スーパーで)「野菜が10円値上がりしてる!買うのやめよ。」→(百貨店で)「この服(2万円)可愛い!買おう!」
正常性バイアス
自分にとっての悪い情報を無視したり、過小評価してしまう傾向。
発生してそうな状況)
😊「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」
生存バイアス
何らかの選択過程を通過できた人や事象を基準として判断し、通過できなかった人や事象を見逃してしまう傾向。
以下は有名な画像で、赤い点が「帰還した飛行機の損傷部分」を表したもの。(画像は架空のデータです。)
この部分が損傷しやすいので強化しようというのが生存バイアス。これは「帰還した飛行機」に対してのデータなので、赤い点は命中しても安全に帰還できる箇所を示している。他の箇所に命中したものは帰還できておらず、データとして残っていないため、強化すべきは赤い点以外の部分が正しいということになる。
ファイル:Survivorship-bias.png - Wikipedia
発生してそうな状況)
👨🦳「自分が出世できたのは、当たり前に残業をしていたからだ。」
ゼロサム思考
一人の得がもう一人の損を意味するという考え。
「器用貧乏:より多くのスキルを有することはそれぞれのスキルの才能がより低い」という考え方も、これに当てはまる。
ゼロサム思考を持っていると、他人を競争相手と見るので、他人に対し競争的で非協力的に振舞うようになってしまう。
発生してそうな状況)
😎「交渉において自分が得するには相手が損するしかない」
ダニング=クルーガー効果
能力の低い人が、自分の能力を実際よりも高く評価をしてしまう傾向。
能力の低い人は、「自分が能力が不足していることを認識できない」「自分の能力の不十分さの程度を認識できない」「他者の能力の不十分さを推定できない」「能力が高まってきたら自分の能力の欠如を理解できる」という特徴がある。
発生してそうな状況)
😊(初心者)「この分野は完全にマスターした」
🤔(上級者)「この分野では素人なのですが」「この分野はチョットデキル」
単純接触効果
初めのうちは興味がなかったり、苦手だったりした物も、何度も見たり聞いたりすると、次第に良い感情が起こる傾向。
馴染みがあるというだけで好ましく思う傾向なので、すでに有効でないツールや手法も使い続けてしまうという効果もある。
発生してそうな状況)
😊「広告で良く見るサービス、使ってみようかな」
😫「ずっと使っているこのツールが一番便利で使いやすい」
ツァイガルニク効果
達成できなかったことや中断していることを、達成できたことよりも良く覚えているという現象。
発生してそうな状況)
😫「あれもこれも失敗した事ばかりで、私はダメなやつだ」
ホーソン効果
人は観察されていると知っていると行動を変えるという傾向。
ベストプラクティスやツールをチームに導入した時が典型的な場面で、みんなが注目している時は結果が非常に良好で、統制がとれ、「未知との遭遇」の興奮が後押しをする。
しかし、目新しさが薄れてスポットライトが当たらなくなると、元に戻ってしまう。
発生してそうな状況)
😊「俺たちのチームはイケていて、成果を出せている。定期的に表彰もされている。」
レイク・ウォビゴン効果
「自分は他人と比べると、平均以上である」と自己を過大に評価してしまう傾向。
意識調査などでは対象者のほぼ全員が「自分が平均以上」という意識を持っている。
発生してそうな状況)
😊「いつでも禁煙できる」「やれば出来る子だから」
🤔 認知バイアスとどう向き合うのか
書籍『リファクタリング・ウェットウェア』では、自己テストとして以下のような質問を自分にしてみることで、大きな視野を得て、自分の理解とメンタルモデルを検証するのに効果があると書かれています。
- どうしてそうだとわかるのか?
- 誰がそう言っているのか?
- どれだけ具体的に?
- 今していることが、自分にどう影響しているか?
- 何と、あるいは誰と比べて?
- それはいつでもそうなるのか?例外を考えられるか?
- それをしたら(または、しなければ)何が起こるのか?
- 自分が……をしない理由は?
最後に
今回は17個の認知バイアスについて簡単に紹介しました。
現在は特に、新型コロナウイルスの報道やSNS、デマなどを見ると、こういった認知バイアスが強く影響されているのではないか、と感じます。
認知バイアスは理解・認知することが大切です。
また、認知バイアスを否定するだけでなく、マーケティングやマネジメントの観点などで利用することを考えても面白いかも、と思いました。
認知バイアスについて興味を持ったのは、現在読んでいるリファクタリング・ウェットウェアの影響です。この本は達人になるための思考の方法などが書かれていて、発見が多いです。
読み終わったらこの本についても感想ブログを書こうと思います。
リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法
- 作者:Andy Hunt
- 発売日: 2009/04/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)